ラス・ハリスの新刊、「(定本)ハピネス・トラップ マインドフルに行きたい人のための心理療法ACT入門」が来月発売されることになったのでお知らせします。ハリスによるACTの本は筑摩書房から4冊出版されているが、お陰様で大変好評を博している。最初の本、「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」が世に出たのは今から約7年前(英語版は16年前)で、その間ACTの研究はさらに深まり、またハリス自身も豊富な臨床結果から新たな知見を積み上げた。それらを入れ込んで同書を改訂したのがこの本である。
ハリスも序文で言っているように、改訂といってもほとんどの部分が新たに書き下ろされている。彼によれば”50%以上を新たに加筆した”とのことだが、翻訳した僕からすると、重複部分は10%程度だと思う。つまり実質的にほぼ新しい本である。改訂ならば大して時間はかかるまい、と思っていた僕はちょっと戸惑ったが、他のハリスの本と同様、ACTのエッセンスが詰まった内容と読み手を飽きさせない魅力的な筆致で、今回も非常に楽しい作業になった。
全体的に言えば、前著では少々専門領域に踏み込み、ACTのメカニズムを説明していたのに対し、本書ではそうした部分はかなり縮小されている。あくまで分かり易さに重点が置かれ、専門用語もほとんど出てこない。これなら中学生でも苦労なく読めるだろう。万人にACTを広めたい、というハリスの意図が感じられる。
紹介されるテクニック、エクササイズも大幅に刷新された。前進行動(自分の人生を向上させる行動)、後退行動(人生を停滞させる行動)という括りで行動を判別する手法や、セルフ・コンパッションを利用したエクササイズなど、効果的なテクニックが新たに多数加えられている。特にセルフ・コンパッション(自分に対する思いやり)については多くの紙幅が割かれている。これはここ数年急速に注目を浴びるようになってきたコンセプトで、クリスティーン・ネフの「セルフ・コンパッション」をはじめ、関係の論文や書籍が多くある。ハリスも大きな影響を受けたようで、本書ではこの考え方を基礎にし、優しさをもって自分に接し、感情を手なずけるエクササイズを新たにいくつか紹介している。僕もやってみたが非常に効果的だった。(セルフ・コンパッションについてはネフの本も含めて別の機会に詳しく紹介したい)。
本書を読むと、ACTが現在進行形で進歩し続けるメソッドであることがよくわかる。Happiness Trapが世に出て以来、ACTは急速な勢いで世に広まり大きな効果を上げてきた。新たな研究結果も日々蓄積されている。それらを吟味し、一般読者が簡単に実践できる形にまとめ上げたハリスの手腕は見事と言わざるを得ない。だが、どんなに言葉を尽くして説明しても、書かれていることを実践してみなければ本書の価値を実感することはできない。ハリスも、”とにかくやってみてほしい”とくどいほど繰り返している。自分の経験からも本書の素晴らしさには太鼓判を押すが、ただ読むだけで”ACT(行動)”しなければ何の価値も生まれない。本書は”読む本”ではなく”やる本”であることを、僕からも強調させて頂きたい。
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