「幸福になりたいなら〜」が骨子としているのはアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT-認知行動療法)という心理療法だ。開発されたのは40年ほど前だが脚光を浴びたのは比較的最近で、そのドラスティックな効果が認められ、国連の難民キャンプでのカウンセリングにも採用された。なぜACTのテクニックがネガティブな感情を無力化できるのか?
言葉は特定の思考・記憶と結びつき、決まった感情を呼び起こす。誰かに「マヌケ!」と言われたら大抵の人は怒る。これは”間抜け”という言葉が怒りの感情とリンクしており、それを喚起するからだ。
このリンクがあるからこそコミュニケーションも豊かになるわけだが、これが一種の過剰な感情を呼び起こすようだと色々まずいことが起こる。XXXと言われてカッとなり知人を殴った、などはよく聞く話だが、これも言葉が病的なほどの怒りを呼び覚ましてしまったからだ。
過剰な感情を呼び起こすのは言葉に限らない。ある種の状況や五感なども引き金になる。電車の中で痴漢に遭った女性が電車に乗るのが怖くなるというのも原理的には同じだ。車両が空いていて危険がまったくない状態でも、電車に乗るという行動がかつての嫌な体験をよみがえらせ、ネガティブな感情を引き起こしてしまうのだ。
ここで誰もがやってしまうのは、ガティブな感情を追い払おうとすることだ。ネガティブな感情さえ消えればとりあえず問題はなくなる。ところが、やってみると分かるがこれは中々難しい。ネガティブ思考を追い払おうとして尚更それに取り憑かれてしまった経験は誰にもあるだろう。ゴルフのパターの時に手が緊張し、それを抑え込もうとするとさらに震えてしまう、というアレだ。
ACTでは、感情が起こるのは脳の自然な活動で、これを意識の力で消すのは不可能、という立場をとる。それは脳内で起こる自然反応的な流れであり、無理やり止めようとすると問題を引き起こす。したがって、世に広まっている”ネガティブ感情を撲滅する”的な方法を、ACTは否定する。それよりも、ネガティブな感情に自分を支配させない、つまり感情の影響力を弱め、集中力を阻害されたり緊張のあまり凍りついたりするのを避けることはできる。ある程度の訓練は必要だが、これができるようになると実生活でかなり大きなメリットになる。僕の場合はその効果が絶大で、まったく予期しない恩恵を得ることになった。心理学・脳科学には前々から興味はあったのだが、ACTがきっかけでさらに深掘りしたくなり、このブログを始めるきっかけにもなった。我田引水のようで気が引けるが、感情コントロールで悩んでいる人には是非一読をお勧めしたい。
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